化学物質過敏症



環境病という名称で臨床生態学活動の創始者であるランドルフにより始めて提唱された。ランドルフは1950年代に多数の症例報告や理論を報告し、本疾患が近年になり製造されるようになった合成化学品に対する適応障害に起因すると主張した。
 その後、1987年にカレンは、化学物質暴露により呼吸器症状を露呈した後、香水などの吸入に誘発されて多彩な症状を呈する一群の症例を報告し、多種化学物質過敏症と命名した。日本には石川らがこの疾患概念を導入し、化学物質過敏症とよばれている。

      現在

類似の状態は、汎アレルギー・20世紀病・化学物質過敏症候群・総アレルギー症候群・総アレルギー症候群・脳アレルギーなど30種類もの名称で呼ばれており、疾患内容の統一がなされていないが、化学物質の暴露に対して異常に反応を起こす症例についての報告が現在まで続いている。

    社会問題

湾岸戦争に従事した軍人の中に、復員後、強い疲労感・皮疹・筋関節痛、頭痛など多彩な症状を訴えるものがおり、慢性疲労症候群・化学物質過敏症と診断され、アメリカでは現在も社会問題になっている。これらの症状は、毒ガス予防薬・殺虫剤暴露によると考えられている。

     概念

このような状態を独立した疾患として認めるべきかについての議論は、1996年2月にベルリンで行われた国連、WHO,ILOなどによる合同の国際化学物質安全プログラムでも行われ、そこではIdiopathic Environmental Intolerances(IEI,本態性環境不寛容状態)と命名した。
 その理由は、多種類化学物質過敏症という病名が、証明されていないにも関らず環境中化学物質との因果関係を示していること、臨床的に定義された疾患でないこと、認められた病態を基盤としておらず、有用な診断基準もないためである。しかし、症状を訴える患者が存在することは明らかなので、専門家の援助を必要とすることを認め、この状態、疫学、予防の研究が率先して行われるべきと勧告している。
診断には他疾患との鑑別を十分に行い学識的方法を用いることが推奨されている。仮の定義としては、
@多発し反復する症状を呈する獲得性障害
A多くの人々には耐えられる多様な環境要因により生じる
B既知の医学的、精神、心理学的疾患が説明できない
とされた

     症状

性別・年齢年齢にみると、40歳代の女性が多く、男女比は1:4で女性に多くみられる。
 発症が徐々であるものが多く、多臓器症状を示す。症状は臓器別にみると、神経、呼吸、心血管、消化器、耳鼻咽喉、眼、皮膚、など多臓器にわたり、その頻度は集中力の低下、不眠、近方視困難、倦怠感、思考力の低下、持続あるいは反復する頭痛、興奮、うつ状態、健忘などの精神または神経症状が6割以上の例にみられ、関節痛、筋肉痛、筋肉の不快感が5割、咽頭痛や微熱などの炎症症状、便秘、下痢、腹痛などの消化器症状も4割程度の例で見られる。このように自律神経症状や精神神経症状を呈するものが多い。また、多くの匂いに対して不快感や症状の誘発を示すことが多い。
 いずれにしても本症は他覚的所見を伴わず、特異的な検査法も存在しない。唯一、低濃度暴露試験による症状の誘発が行われているが確立にいたっていない。したがって、化学物質の環境暴露により引き起こされる自覚症状を主体とする病態といえる

      発生機序

典型的な例では、かなり大量の化学物質に暴露し急性中毒症状が発言した後か、長期にわたり暴露した場合、化学物質暴露に対して寛容を失い、少量の化学物質に暴露した場合に症状を呈する。すなわち化学物質暴露により、以前はは無反応であった化学物質に症状を呈するようになる。一方、心理的な要因が感受性に影響する可能性も指摘されている。

      診断

化学物質過敏症が多種類の化学物質に対して耐性に乏しい状態と想定すれば、類似の症状を呈する他の疾患の可能性を除外した上で、疑わしい化学物質を暴露し症状を再現することが診断に繋がる。1996年のWHOの会議でもこの点が強調され、現病歴、理学的所見、心理・精神医学的評価、臨床検査により既知の疾患を除外した後に本症を診断すべきとされている。

    治療と対策

本章の原因と病態生理が判明していない状況では、根本的な治療・対策は存在しない。しかし、効果が期待される対症療法については、いくつかの報告がなされている。米国医師会は、原因物質からの回避が最も有効で、患者の食事制限や自宅・転居先での化学物質の少ない部屋の設置、重症例では専用の隔離施設利用などをあげている。また、患者の適応力強化のための心理療法や体内からの化学物質の排出促進もすすめられている。